福祉人材とコムスン問題の部屋

東松山市で、深夜もホームヘルプサービスが続けられるわけ
東松山市総合福祉エリア施設長 曽根直樹さん/2007.11.06

 東松山市は、坂本祐之輔市長の当選後、「ノーマライゼーションのまちづくり」を市政の基本理念に掲げ、様々な施策に取り組んできました。その1つに、1996年に始めた24時間巡回型ホームヘルプサービスがあります。介護保険制度が始まる前でしたから、ホームヘルプサービスは措置制度によって行われていました。
 介護保険制度が始まり、要介護高齢者のサービス量は格段に増えました。在宅生活を支えるホームヘルパーの人数だけでも、それまでは市直営の7人だったのが、私が勤務する総合福祉エリアだけでも120人を超える人数になり、介護の基盤整備は格段に進みました。

 しかし、深夜のホームヘルプサービスに限って考えると、次のようなことも言えるかもしれません。措置制度には、介護度に応じた区分支給限度額もありませんでしたし、利用者の自己負担も応能負担であったため、特に年金収入だけの高齢者世帯は「自己負担なし」がほとんどでした。深夜のホームヘルパー派遣が必要な人が、サービスの「利用上限額」や「自己負担額」を心配することなく24時間のホームヘルプサービスが利用できていました。
 また、事業を委託された事業者にとっても、「人件費補助方式」か「事業費補助方式」か、どちらかを選べる制度となっており、利用が多くて収入増を見込むことができれば「事業費補助方式による出来高払い」を選び、利用が不安定で人件費に相当する収入が見込めなければ「人件費補助方式による総額人件費補助」を選んで事業の運営を行うことができました。

 2000年に介護保険制度が始まり、要介護度に応じて区分支給限度額が設定され、サービス報酬の1割が自己負担となると、区分支給限度額内にサービス報酬額を抑えなくてはならないため、日中のサービス利用を中心にケアプランが組まれることになり、深夜時間帯のホームヘルパー派遣の利用は全国的に激減しました。
 深夜の訪問活動には危険防止が必要となり2名のヘルパーが1組となって訪問します。しかし、毎晩2名を配置して深夜時間帯のホームヘルパー派遣を行うためには、非常勤職員を配置するなどのコストダウンを図っても、最低1晩7人の利用がないと採算ラインを超えることができません。
 利用者が増えて採算ベースに乗るまでの人件費が保障されないと、事業者としては経営リスクが高い夜間帯のヘルパー派遣には参入できないのが現状です。

 自宅で寝ているヘルパーが、深夜のサービス利用がある時間だけ起き出して、自宅から利用者宅へスポット派遣する方式をとれば経営リスクは軽減されますが、ヘルパーが疲れはててしまいサービスの継続も不安定になってしまいます。
 また、介護保険制度が始まると、行政が介護保険サービスのために補助金を出すことが難しくなりました。そのため、現在、深夜時間帯のホームヘルパー派遣が行われているのは、人口が多くて利用者数の確保が可能な都市部に限定されているようです。
 しかし、制度に関わらず、深夜時間帯にホームヘルパーの派遣を必要とする人は必ずいます。不採算分野のサービスは提供しなくてよいのであれば、これらのニーズを持つ人はサービスの利用ができません。

 東松山市でも、介護保険制度開始以前から行ってきた24時間のホームヘルプサービスを続けるかどうかが議論されました。
 「少人数だから我慢してもらうしかない」「排泄介助が必要なのであれば、紙おむつで代用できるはずだ」などの意見も出されました。
 しかし、最終的には365日の深夜時間帯のホームヘルパー派遣を、高齢者、障害者を問わずに行うことができる体制をとる。事業運営に必要な人件費等の支出と、サービスの報酬による収入(介護保険、障害福祉サービス)との差額を行政が補助する。この事業を、東松山市社会福祉協議会が運営する東松山市総合福祉エリアの訪問介護事業に委託する、という結論になりました。それが「東松山市24時間巡回型ホームヘルプサービス体制整備」です。

 事業を始めた2000年度は、1晩の利用者数が平均2人〜3人という状態でしたが、年とともに利用者が増え、2006年度は1晩平均7人となり、初めて市からの補助金を全額返還し、事業報酬だけで採算ラインを超えることができました。
 ただ、深夜時間帯のホームヘルパー派遣が必要な人は、介護度が高く、障害の状態も重度の人が多いため体調も不安定です。そのため、入退院を繰り返したり、ショートステイを多く利用していたりして、利用者数は常に変動があります。
 2006年度は全額補助金を返還できましたが、2007年度が同じ状況という約束はありません。このような状態で安定して事業を継続できるのは、体制整備事業による補助金があるためです。

 介護保険制度では、2006年度から地域密着型サービスとして、夜間対応型訪問介護が開始されました。しかし、人口が集中している都市部と、人口が少なく人口密度の低い地方では、サービスが成り立つ条件も違うため、方法も違っていいのだと思います。
 24時間のホームヘルパー派遣を可能にするためには、それを可能とするための方策を地域の実情に応じて、自治体が講じる。このことを抜きに、住民が安心してサービスを受けることができる体制は実現しないと思います。

(原題は、「東松山市24時間巡回型ホームヘルプサービス体制整備」事業について)

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