卒論・修論の部屋

市民・患者が医療情報を得ることの必要性とその方法としての医療情報室の役割と展望
池上英隆さん

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4.2. 医療情報室の展望

 この節では、今まで論じた情報室の役割・課題を基に、情報室が更に発展するような方法を考えることにする。


4.2.1. 病院との連携

 情報室の発展に向けての一つ目の方法は病院と連携である。情報室を病院に設置する場合は当然不可欠なことである。
 まずは、情報室を設置する段階での連携が必要である。情報室を設置すると決まった段階で、情報室に病院がどれだけ力を入れて取り組むので情報室の行方も変わってくる。特に予算面でどれだけの手助けが得られるかが重要である。
 運営段階では、予算面での助けはもちろんあった方が良いことは既に述べた。運営段階で一番必要な連携は相談窓口との連携である。相談窓口との連携の重要性は前にも述べたが、病院に患者アドボカシーを設置して情報室と連携することが望ましい。
 病院の職員との連携も必要である。特に医師は情報提供者という面、また患者への教育という面でも情報室の意義をしっかり理解してもらう必要がある。現状では、病院内全ての医師に情報室の意義が理解されているような施設は見られなかった。医師以外にも看護師、MSWなどチーム医療に携わる全ての職員の理解も得ることが必要である。病院ボランティアが居る場合は様々なボランティア同士の連携も必要であり、ボランティアコーディネーターが必要となってくるだろう。


4.2.2. NPO・企業との連携

 二つ目はNPOや企業との連携である。今までの例で、国立長野、国立大阪では医療NPOに情報室を痛く運営しているケースが見られた。NPOが運営することにおけるメリット・デメリットは今まで述べたとおりである。メリットは病院と別個の運営をできることで、セカンド・オピニオン等の相談が受けやすいことと、NPOが広報をすることができる点である。デメリットは予算の問題と、NPO団体自体の宣伝として受け取られることがあるということである。
 これまでは医療NPOが運営をしている所を見てきたが、これからは他のNPOや企業が情報室の運営に参入してくることも考えられる。例えば、福祉団体は福祉情報との兼ね合いで連携が考えられる。医療コンサルタント企業も病院のコンサルタントに情報室の設置を盛り込むこともあるだろう。
 更に、これまでは医療とは縁のなかった分野からの参入も考えられる。医療と企業の連携例としてローソンが病院売店としてコンビニエンスストアを運営するという例がある。これまでは独自のスタイルを保ってきた医療界であるが、他職種からの参入で様々な可能性が広がる。筆者の考えた例であるが、情報室を憩いの場とするためのカフェの併設、情報をより広めるためのラジオ・テレビ局と連携した院内放送、必要な書籍を取り寄せるための書店との連携、など様々な可能性が考えられる。
 企業が参入することの問題点はNPOと同じく(NPOの場合は特にだが)、目的が患者・市民の側に立ったサービスであって、利益を追求するためのものではないということを意識すべきであるという点だろう。


4.2.3. 図書館・情報室との連携

 三つ目は図書館や他の情報室との連携である。情報は一箇所の情報では限りがある。そのため、他の情報を得られる場所との連携は必要になってくるだろう。一箇所に集められた情報だけでなく、情報のネットワーク全体で利用者をサポートしていかなければならない。
 図書館との連携であるが、これは図書館自体が医療情報をあまり扱っていないため現段階では難しい。専門的な情報のある医学図書館は開放には消極的である。しかし、浦安市立図書館の様に医療情報に対するニーズに応えているところもある。アメリカのニューヨーク公共図書館では健康図書センターという専門的な施設もある。まずは、図書館自体に医療情報を集めること、医学図書館との連携、が必要である。日本では欧米ほど図書館自体が利用されないため難しいかもしれないが、サービスを特化していくことで逆に利用価値が高まるということもある。また、国立医学図書館のようなものを作ることも医療情報の収集には役立つだろう。
 情報室との連携は、まだ情報室の数がそれほど多くは無いが将来的には必要であるだろう。病院の情報室ではその病院に特化した情報が集まる可能性がある。その強い分野の情報をお互いに補完しあうことで、質の良い情報を得られることができる。
 情報室同士の連携の問題点は、それぞれの所属団体である。筆者の調べたものを列挙すると、病院図書室関連では、日本患者図書館協会、病院図書室研究会、患者図書サービス連絡会、近畿病院図書協議会、日赤図書室協議会、専門図書館を入れると医学図書館、看護図書館、薬学図書館の団体も存在する。これらの団体同士の連携が行われることで、異なった所属団体の情報室の連携も行われるようになるかもしれない。


4.2.4. ボランティアの広がり

 四つ目はボランティアの役割の広がりである。日本ではボランティアに対して「無償」の「自発的な」行動であり、なんとなく敷居が高いというイメージがあった。しかし、阪神大震災後のボランティアの広がりでボランティアに参加する人が増えてきた。病院ボランティアに関しても導入している病院は増えてきている。しかし、その役割についてはまだ限定的である。
 現在の病院ボランティアの役割といえば、院内の案内役、看護・介護の補助役、といったものがほとんどである。しかし、欧米や日本の一部の病院などでは、カルテの記入などにも参加している場合がある。ボランティアだから「補助的」な役割しかできないというのは偏見であり、「専門的」な役割も出来るのである。だからといって専門的役割をすべてボランティアに任せてよいわけでなく、十分に訓練を積んだボランティアが専門的役割を果たすべきであろう。また、ボランティアだからといって、中途半端な仕事にならないように誇りを持って参加すべきである。
 情報室でボランティアが果たせる役割はどのようなものがあるだろうか。現在では、情報検索の手伝い、院内の巡回サービスが主である。将来的には、訓練を受けたボランティアが相談業務、司書的な情報検索、といった役割を担うことが期待される。
 患者自身がボランティアに参加することもできるだろう。先に述べた患者自身の体験談を語る「語り部」としてのボランティアである。自身の体験を語ることで、自身の病気を受け入れたり、情報を改めて整理して、前向きに病気を捉えることもできるかもしれない。「語り部」だけでなく、自分の動ける範囲でボランティアをすることは何より社会復帰(病気になり入院することが必ずしも社会からの逸脱とは限らないが)に向けてのよいリハビリになるだろう。


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