戦略会議・選んだ場所で誇りをもって

医療から福祉に高齢者ケアの軸足を変えたスウェーデン
〜エーデル改革から15年後、スウェーデンの地方都市のフィールドワーク〜
福祉の勉強会 ホスピタリティ☆プラネット 藤原瑠美

1、エーデル改革という医療・福祉改革

前夜
・スウェーデンでは、1992年のエーデル改革前夜、長期療養病棟や療養型施設のベッドが社会的入院患者であふれていた当時、社会的入院患者の責任は、医療(県)と福祉(市)のどちらが責任をもつのかがあいまいなままだった。

※スウェーデンでは、医療を県税、市税で福祉・教育・生活全般をまかなう。例えばスコーネ県の歳出の9割が医療関連。1960年代には病院法が主流をなし、病院医療の充実と領域拡大が謳われ、大量の病棟が建設され、結果、病院のベッドが慢性患者に占められていった。

社会的入院患者をなくす
・改革では、社会的入院患者の受け皿を、市の福祉の責任で解消するように決まった。
・受け皿を用意できない場合、市は「社会的入院支払い責任」の義務を負い、入院費用を県に払う。

15年後、65歳以上の高齢者の要介護比率は12,5%!
・エスロブ市に暮らす65歳以上の高齢者で、介護を受けている人(在宅・ケアつき住宅)の割合は12,5%。スウェーデン全体で15%。80歳を過ぎても健康で自立した人が多く、一週間ぐらい寝込んで亡くなる長患いしない高齢者が多かった。

2、特別な住居(ケアつき住居)の出現

スウェーデンにはもはや施設はない
・どこに住んでも「自宅と同じ環境」を用意した。特別な住居にはキッチンとシャワールームがあり、自分の家具を持ち込み、自宅と同じ生活がある。細部のつくりも普通の住宅を模している。エスロブ市の場合は平均が24畳の広さ。もはやスウェーデンに「施設」は存在しない。スタッフは入居者に「部屋に戻ろう」と言わず、「アパートに戻ろう」と語る。
・入居者の介護度は日本の特養に比べるとかなり低く、認知症も進んでいない。@その人らしい人生を送れるような生活支援。A社会的環境を整える。歯ブラシや枕の硬さにこだわるなど、個別対応に心がけたケアを実践している。

見た目ほど経費がかかっていない
・特別な住居にかかる経費は、訪問介護の3倍。トロール・ホ−デン:総経費から収入(入居者の利用料等)を差し引いた実質経費を、入居者71名で割ると、一人当たり月に約392,200円(1SEK=15,6円)。70,4%が人件費。家賃19,7%、食費6,4%、その他3,5%。家賃が安いのは、エスロブ住宅公社(市がもつ独立採算の公社)から、光熱費・補修費込みで賃貸しているから。

3、各種在宅サービスの充実

どうして高齢者は1人で暮らせるのか
・スウェーデンの二世帯同居率は4%。エスロブ市では、伴侶を亡くすと高齢者の誰もが一人暮らしを始める。 軽い認知症であっても、末期のがんでも、片麻痺やリウマチを患っても、100歳でも、本人が望むと、自宅での一人暮らしを支える制度がある。それにしても、なぜ淡々と、こんなにも多くの高齢者が一人暮らしできるのか。
・訪問介護利用者の49・5%が5分前後の安否確認だけで、一人で暮らしている。一方一日6回の訪問もあり、ニーズに応え、長短の訪問を使い分けた介護サービス。短い訪問の結果、訪問する人数を増やせ、在宅で暮らせる高齢者を増やせた。

介護スタッフ、アンダーナースの成長
・エスロブ市では、アンダーナース(英語)underskotersk::uskという、基礎的な医療の勉強を修めた介護スタッフを、エーデル改革以来植林をするように育ててきた。現在介護スタッフは全員アンダーナースだが、都市部では、この比率は低い。
・エスロブ市では、ケアと、時間を食う家事援助サービス(洗濯・掃除・料理)を切り離し、アンダーナースが高齢者と会話する時間を増やした。アンダーナースの会話力・人間関係力が高齢者を孤立から救っている。ベテランは、実によく会話を交わしている。オムソーリ(相手を気遣う)という古い言葉をケアの中心に据えている。高齢者が自分らしく生きる個別対応がオムソーリといえる。またオムソーリのケアでは、家族・近隣の助け合いも提唱している。
・訪問介護は短い「ポイント介助。平均滞在時間が15分、長くて30分。一方、午後には会話や散歩が中心の40分もある。
・各種在宅サービス:訪問介護・家事援助サービス・訪問看護・リハビリ(施設・在宅)・補助器具アドバイス・在宅安全アラーム・便利屋ペーターさん・家族ケア・友愛訪問(年金生活者組合)・デイサービス・高齢者集会場・グードマン制度等。
・社会サービス法に準ずる仕事: 起床介助、ベッドメイキング、朝食準備、トイレ介助、トイレの掃除、ゴミ処理、新聞と郵便物の取り出し、マニキュア・ヘアカラーを巻くこと、食事を温めること、シャワー入浴、ペットの世話、買物、散歩、薬を飲んだかの確認、就寝介助。
・医療保健サービス法に準ずる仕事: フットケア、インシュリンの注射、床ずれや皮膚の手入れ、採血。

5、法律で看護師が初期医療を担えるように決めた

医師に代わり、看護師が高齢者の初期医療を担当
・エスロブ市の800人の患者(在宅/施設でケアを受ける高齢者・障がい者)を35人の看護師が担う。そのうち22人が特別な住居、12人が地区看護師、1人がリハビリに働く。
・エーデル改革では、県との合意ができた市から、地区看護師が市に所属することになったが、改革15年後においても、いまだ、スウェーデン全体で50%の市しかこれを完了できていない。2006年、訪問看護を市に一元化する法律ができた。
・地区看護師は、医師(県の職員)と頻繁に連絡を取り、医師に代わり初期医療を担当できる。電話で医師と密な連絡を取る中、看護師と医師の意見が違う時、エスロブ市の場合は、看護師の意見が尊重される場合が多い。地区看護師は自立した仕事をしており、緩和ケアも担う。患者が死ぬと看護師は「死亡確認書」を書く。これをもとに医師が「死亡診断書」を書く。
・アンダーナースが簡単な医療的行為をする時には、看護師がそれを委任delegationするというシステムがある。これは1対1で対人的に相手の能力をみて行う。看護師はアンダーナースの医療行為を指導する立場にある。
・エーデル改革で、医療責任看護師(MAS)が誕生。社会庁の窓口となり、市が行う医療行為全般の責任を取る。

6、医療へのアクセスが悪い社会が生まれた

・エスロブ市には病院がない。医療機関としては、地区保健医療センター(以下センターと記す)が3つ、専門医センターが1つあるだけ。日本のように個人が自宅で開業する医院はない。センターにいる総合医は家庭医を勤め、内科から眼科、皮膚科まで診る。センターでは、レセプションの看護師が電話で病状を聞き、病院か、センターか、薬局に行くかを患者にアドバイスする(月〜日の8時〜17時(土日は18時まで)。時間外これ以外は24時間対応の県の医療情報センターで対応。
・病院では急性期と精神医療のみ診る。入院医療が中心で、日本のようないわゆる混雑する外来はない。 エスロブ市の人々が脳卒中など急性期の病気になった時は、車で30分のルンド大学病院(1200床)に行く。不満は聞かなかった。
・スウェーデンではにルンド大学病院のような高度医療を担う管区病院が9つ。県立中央病院と県立地区病院が合わせて79ある.地区保健医療センターは947ある。

7、高齢者リハビリは、医療ではなく福祉に組み込まれている

・高齢者の退院が決まると、退院専門のケアマネジャーとリハビリスタッフが病院を訪ね、患者の今後のケアを査定する。エーデル改革で、受け皿を用意できない市は、所定の入院費を県に支払わなければならないという義務を負わされるようになったこともあり、退院が決まると、間髪を要れずにリハビリが動き、在宅生活の支援をする。
・在宅リハビリ、施設リハビリ。在宅における補助器具アドバイス(作業療法士)、在宅安全アラームなどの各種リハビリは医療ではなく福祉に組み込まれており、高齢者が自律・自立した生活ができる心身のノウハウを教える。
・日本と違い、医師の許可を得なくてもリハビリを施せる。大学で3年間学んだ作業療法士、理学療法士はアンダーナースをインストラクターに育てる。縦割りでなく、横のつながりがある。

8、高齢者集会場は「文化に触れること」と「連帯」で高齢者を元気にしている。

・集会場は、介護家族相談窓口、認知症高齢者デイサービス、市民が使えるレストランなどの機能を果たす。
・自主運営のクラブ活動として「音楽の集い」「男の料理教室」「ビリヤード」「手芸蔵具」「体操グラブ」「ウォーキングクラブ」「英会話教室」「トランプの会」などがあり、どれもお仕着せでない。高齢者はアクティビティで元気になる。
・市と、年金生活者組合、赤十字社、ルーテル教会が一緒に運営しており、集会場の職員は100%換算で3・9人。
・スウェーデンの年金生活者組合は、@政治的圧力団体、A高齢者の余暇活動、B高齢者への友愛活動など、当事者組織として、高齢者の生活向上のために重要な役割を果たす。全国組織で、最大は社民党系のPROが37万8千人、SPFが21万人 SPRF(国家公務員年金生活者組合)が5万人など、組織力で強い力を持つ。

9、最後に

社会的入院患者をなくし、医療重視でなく、自分らしく生きる生活支援を充実させた結果、高齢者を支援した結果、高齢者が健康になった。エーデル改革の優等生のようなエスロブ市では、高齢者が健康なだけ、経済状態がいい。約291億円の歳出の対比は、子ども関連29,6%、高齢者13,3%、障がい者11,6%である。子どもに手厚く社会資源を分配している。子どもを健康に育て、教育を充実させることができた。エーデル改革の果実は、健康な子どもは健康な大人になり、健康な高齢者となるという循環が生まれたことでもある。

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