熱意ある人々だけでなく、すべての関係者の最大のテーマに
◇人口3万7000の伊達市、知的障害のある350人が町の普通の民間住宅で生活
◇きめ細かな手厚い支援で地域での暮らしが可能に
小林繁市さん・伊達市地域生活支援センター所長

 伊達市は、北海道の南西部、太平洋岸に位置する人口3万7000人の小さな町です。この静かな町に、約350人の知的障害のある人たちが、アパートでの一人暮らしや結婚生活、グループホームでの共同生活など、地域の中で自立して暮らしています。これは市の人口の約1%にあたります。

 なぜこんなにたくさんなのかと言えば、伊達の東山の中腹に「北海道立太陽の園」という大きな施設(最大時の入所定員400人、現在は320人)があり、そこで暮らしている人たちが施設を出て市街地に移り住むようになるからです。
 約350人は、町の中に散在する101戸の住宅に住んでいます。ごく普通の民間住宅です。伊達市では、障害のある人も同じ市民として、これまでのような人里離れた山の中の施設ではなく、町のど真ん中で堂々と生きていくことを最大のテーマに「地域支援システムづくり」を進めています。

 これらの人々の約半数が伊達市周辺の60カ所の一般企業で就労しています。伊達市にある雇用保険適用事業所は約600カ所といわれていますので、1割の企業が障害者を雇用していることになります。残りの半数は通所授産施設や小規模作業所など6カ所の福祉的就労の場に通っています。
 これら地域生活者の暮らしや就労の支援拠点の役割を担っているのが「伊達市地域生活支援センター」です。利用者本人を中心に事業主、住宅提供者、父母、学校、行政などあらゆる関係者と密接な連携を取りながら、どこで、だれと、どのように暮らしても、一生涯にわたって支援を継続していくことを目標にしています。

 グループホームは35カ所あり、計189人が生活しています。支援形態は大きく分けて三つのタイプに分かれます。
(1)ある程度の身の回りのことは自分でできるが掃除や洗濯が苦手という人は、食事作りも含めて、朝方3・5時間、夕方4時間、計7・5時間の世話人の支援付きホームで生活します。
(2)比較的障害が重く、身の回りのことが十分にできない人は、世話人が24時間付いたホームで手厚い支援を受けます
(3)もっとも重症で医療的ケアが必要な人や行動障害のある人は、(2)の24時間の世話人の支援に合わせて、起床、洗面、排便、入浴等の介助のために、朝夕あわせて5時間程度のヘルパーの支援を受けます。
 このように一人一人に合わせたきめ細かな手厚い支援さえあれば、障害の重い人であっても、地域生活は可能だと思われます。

 国は障害者福祉計画の「基本指針」の中で、2011(平成23)年度までに、現在の施設入所者の1割以上を地域生活に移行させる数値目標を発表しますた。施設からいきなり地域に移行できない人たちのための経過的措置として、地域移行型ホーム(施設敷地内グループホーム)が認められることになりました。親の不安の解消や、地域移行についての実績がなかった施設も、第一歩を踏み出すことが容易になりました。

 地域移行やグループホームが一部の熱意ある人々だけの取り組みではなく、すべての関係者の最大のテーマとして、今後大きな広がりとなるよう期待しています。

◇こばやし・しげいちさん
 1946年生まれ。太陽の園希望ケ丘学園長などを務める。94年第1回N・Eバンクミケルセン記念賞。共著に「施設を出て町に暮らす」など。

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