雑居部屋の部屋

4人部屋を望んでいるのは誰?
NPO法人「楽」理事長 柴田範子さん

特養待機者42万人という数字が独り歩きしている。
待機しているのは、特養でなければ生活の継続が不可能な方々なのだろうか。それを真に心待ちしている方々なのだろうか。

施設から在宅へと言われて既に何年になるのだろう。介護保険が始まり10年になっている。
県や市町村レベルでは住まう場が不足していることを理由に、特養の4人部屋復活が着々と進められている。
昨年、ある県の会議で「県としては特養の居室の4人部屋を進める」と報告があり、「なぜなのか。誰がそれを希望しているのか」と質問をした。「市民です」と言う答え。入所したいが居住費を負担できない人が少なくないからだとも言う。

先日、とても楽しみにしていた集いに参加できた。その席で、私が尊敬するこぶし園(新潟県)の総合施設長小山剛氏は「今の大学生はバス・トイレ・キッチンつきの20u位の個室に住んでいる。なぜ、日本の発展のために頑張ってきた方々が4人部屋なのか」と発言した。また、早くに個室・ユニット型の「風の村」を作った社会福祉法人生活クラブの理事長池田徹氏は「生活クラブの中で、自分たちが将来住みたい施設は、その面積はと5年間話し合った結果が今の風の村です。これが最低限なのです」と語った。

最近の読売新聞の記事に、4人部屋を新型特養に改築した特養「真寿園」の荻野施設長の発言があった。「家族の面会時間が、他の利用者への気兼ねがあった4人部屋の時よりも長くなり、訪問回数も増えた」とある。
介護保険制度の柱に利用者主体・自己決定がある。
4人部屋推進は、年寄りは体を横にする場があればプライバシーなんて問題ではないと言う、人間の尊厳を否定した考え方だと私は思う。

私は小学校高学年から始めたソフトボールを高校卒業まで続けていた。高校ではキャッチャーを守備位置としていた。3年の春、膝を痛め、歩くことすらできなくなり手術台に乗った。入院期間3カ月の内、約1カ月はベッドから離れてはいけないと言われていて、朝の洗面さえも人の手を借りなければならなかった。「トイレに行っていいですよ」と看護師さんに言われた時には嬉しいと言うより、一足でも早くトイレで排泄をしたいと急いだものだ。一足でも早くプライバシーが確保された場で排泄をしたかったのである。

私にとってベッド上で他者の手を借りておしっこや便をしているとき、音や臭いが他の方々に与える影響を考えると屈辱的な思いでとても辛かった。入院生活は3カ月だったが、私はとても長く感じていた。特養に入所している方々の内、在宅へ戻れる方はまれで、5,6年、何には10年と長く施設で暮らしている方々がいる。

1人でいるのは寂しくっていう方もいると思う。その方が望むのであれば多床室も選択の1つかもしれない。多床室を希望しない方々には補助制度を考え、その人のプライバシーが保たれる環境が絶対に必要だと思う。できることなら、1人でも多くの方が在宅で暮らせる施策を早急に進めてもらいたい。
在宅で亡くなるお年寄りの支援をさせてもらい思うことは、ご本人・ご家族の素敵な場面に出会うことができるからである。

(介護ビジョン2010/4/25号より)

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