目からウロコのメッセージの部屋

「ババア発言」と「おばあさん仮説」の間
朝日新聞科学エディター 高橋真理子さん

 東京都の石原慎太郎知事のいわゆる「ババア発言」が先週の都議会で取り上げられた。
 高名な宇宙学者の発言を引用したという従来の弁明を繰り返したと知り、あぜんとした。

 女性誌で「松井孝典(東大教授)がいってるんだけど、『文明がもたらした、もっともあしき有害なものはババア』なんだそうだ。『女性が生殖能力を失っても生きてるってのは、無駄で罪です』って」などと述べたのが、「ババア発言」。
 女性113人が謝罪広告掲載などを求めて訴訟を起こし、一審、二審とも請求は認めなかったが、発言は「知事個人の意見の表明」と認定した。

 松井教授との対談は「東京の窓から日本を2」(文春ネスコ)に収録されている。
 教授は、おばあさんが集団の中で重要な役割を果たしたから、人口が増え、人類はアフリカから世界中に散ったと説明している。
 生殖年齢を過ぎたおばあさんが多数いるのは現生人類だけ。これは事実である。文明を作ったのも現生人類だけと言っていい。
 だから、文明を作るのにおばあさんが寄与した、というのが松井教授や何人かの人類学者が唱えている「おばあさん仮説」だ。

 文明ができたから「無駄なババア」が増えたというのが石原説。
 両者の違いを知事は理解できないんだろうか?
 松井教授は「最初にそう思い込んじゃったんじゃないの? 会ったのは1回だけだから、僕もよくわかんないよ」と困惑していた。

(朝日新聞科学面「記者席」2007.2.20夕刊 「ババア発言」誤用じゃない?より)

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