医療費と医療の質の部屋

(1997年9月19日 朝日新聞夕刊「窓」・論説委員室から)

 「勘や経験や権威に頼った医療から脱却し、他の先進国のようにエビデンス・ベイスド・メディスン(証拠に基づいた医療)を政策の基盤に」と、社説で提案したところ、もっと詳しく知りたい、というお手紙をたくさんいただいた。
 新聞では初登場のこの言葉、あまりに長々しいので、「EBM」と略称されている。

 たとえば、世界中で発表されているおびただしい臨床研究の最新情報をもとに、患者一人一人に、もっとも有益で害のない治療法を選びだす手法だ。
 1993年、カナダで命名されて以来、治療の現場だけでなく、政策判断の道具としても使われるようになった。
 関心は深まる一方で、この言葉を含む英語の論文の数は、世界で昨年中は100本だったのが、今年は2カ月間で450本を超える勢いだ。

 日本では、長年、「証拠に基づかない」医療や行政が横行してきた。
 その苦い典型が、安部英・帝京大元副学長の勘と権威によりかかった血友病治療と薬務行政だった。その後も、硬膜移植による痴ほう症、抗がん剤による死者……と犠牲者は絶えない。

 こんなことはもう終わりにしたいと思う人たちが、「医薬ビジランスセンター」(浜六郎代表)を発足させた。「ビジランス」とは「寝ずの番」の意味、EBMの医薬品版である。
 20日から3日間、吹田市の大阪大学コンベンションセンターで旗揚げのセミナーを開き、英国オックスフォード大学のN・R・ヒックス博士が、EBMについて講演する。

 海外のこの種の医薬品監視組織には公的資金がそそぎ込まれているが、日本では熱意だけの旅立ちだ。

〈雪〉

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