高齢福祉政策激動の部屋

死を招いた木村建設関連企業が設計したグループホーム/長崎火災現地検証から
日本グループホーム学会 栩木保匡さん、露木之子さん

 本年1月火災で全焼した認知症高齢者グループホーム「やすらぎの里さくら館」が解体撤去されるにあたり、去る3月21日に現地検証を行いました。
合わせて、現地で入手した設計図書と実際の建築物の状況確認も行いました。
詳細な報告は後日正式な報告書として学会へ提出させていただきますが、現地検証した感想も含めて、現地で確認できた点など概要をご説明いたします。

1.建物の構造について

 当該建物の構造については、鉄筋コンクリート造と言われたり、一部木造とか、鉄骨造とか、いろいろ指摘されてきました。
設計図と現地検証した結果としては、外壁面の全てと内壁の一部が鉄筋コンクリート造であり、その他に木造・鉄骨造も含めた混構造となっていますが、屋根などの主要な部分が木造であり、耐火的な面では木造と同等の建物と判断する必要があります。
建築主は鉄筋コンクリート造の建物だから、耐火・防火上は安心だと考えていたと聞いていますが、設計者・施工者とどのような説明や確認がされていたのか、経過確認の必要性を感じますが、それ以上に、この種類・規模の建物を木造並みの耐火性能で建てる場合の安全性への注意・配慮について、設計者・施工者がどのように考えたのか、問われる必要があります。
仮に面積が300u以下のために自動火災報知設備などが義務付けられないとしても、約280uの面積であり、自己避難できない入居者が多く入居する施設について、防災設備面をはじめ、居室の配置や出入口・窓の構造を含めた避難方法、内装仕上げなど総合的な配慮がなされるべきだったと思われます。

 当該建物の構造的な特徴として、外壁および内壁の一部をAAB工法という特殊な鉄筋コンクリート造としている点が上げられます。
AAB工法は、発砲ポリスチレンでできた型枠ブロックを積み上げたもののなかにコンクリートを打設して、発砲ポリスチレンをそのまま内外とも断熱材として利用するという工法です。
当然型枠の発砲ポリスチレンをはずさないために、コンクリートの打設状況の確認ができないために、コンクリート壁内に空洞(ジャンカ)などの施工不良があっても確認や補修ができない点など問題点が指摘されていました。
今回の現場検証において、火災のために発砲ポリスチレンが燃焼したためにコンクリート面が露出した壁面において、コンクリートが充填せずに空洞状態となり、内部の鉄筋が露出している箇所が数ヶ所で確認されました。
なかには、巾20センチにわたって空洞になっているところもあり、構造的に大きなな欠陥と考えられる箇所もあります。
 この問題は直接、今回の火災とは関係ないとも言えますが、この工法の断熱性や経済性のみを強調して、グループホームやデイサービスセンターなどの介護施設の受注を広げてきた施工会社の姿勢と、そのためのコンサルやAAB型枠の商品提供を行ってきた企業、またそれらの問題点を結果として放置してきた建設行政などについて、今後検証する必要性を感じます。
合わせて、今回の火災において亡くなられた入居者のなかにガス中毒死の方が居られることと、AAB工法の発砲ポリスチレンの燃焼や、屋根裏断熱材のポリエチレン材などの燃焼との関連性を含めて検証が必要と考えられます。

2.防火区画について

 火災時における急激な延焼の防止や、避難経路・避難時間の確保の上で、建物内を「防火上主要な間仕切壁」で小屋裏まで防火区画することが必要です。
特に、福祉施設や寄宿舎などでは、居室3室以下且つ100u以下の範囲で防火区画することが一般的に建築主事によって指導されています。
 今回の現場検証において確認したところでは、設計図(平面図)に記入されていた「防火上主要な間仕切壁」はほぼ図面通り施工されております。
ただし、廊下と居室の間の防火区画については、小屋裏部分の防火区画壁の下地構造が図面では軽量鉄骨造となっていますが、実際には木造下地となっておりました。
木造下地でも法規上は違反ではありませんが、木造では軽量鉄骨に比べて耐火性は低く、実際に軽量鉄骨下地の防火区画の部分と、木造下地の防火区画部分では延焼の状況が異なり、木造下地部分では表面の石膏ボードが全て焼け落ちておりました。
この部分を他と同様に軽量鉄骨下地で施工していた場合、火災の延焼にどのような相違があったかは不明ですが、今回の火災が居間付近から発火し、次に廊下へ延焼し、更に居室へ延焼したことを考えると、下地の相違による比較検証が必要と思われます。
また、もしこの建物の建築面積が300uを越えていた場合(実際の建築面積は292.61u)には、小屋裏部分で建物を左右二つに大きく防火区画する制限も加わります。

 当該建物の延床面積は279.12uであり、300u以下のため自動火災報知設備も、消防機関への火災報知装置も義務付けられておりません。
しかし、同じ高齢者グループホームで280uのものと、300uのものでは何が違うのでしょうか。
今回の建物では、自動火災報知設備の設置義務を避けるために、あえて300u以下に面積を調整したことは明らかであり、そのことによって火災の被害が拡大したことは明白と言えます。
もし火災報知設備の設置義務基準面積が、例えば200uであれば状況は大きく変わっていたと思われますし、限りなく300uに近い建物に対しての建築・消防機関の指導のあり方や、設計者・施工者の考え方や判断など、経過を正確に検証した上で、総合的な制度整備や対策を総合的に検討する必要があるように思われます。

3.平面プランについて

 入手した平面図と現地建物を見たところ、この建物の平面上の特徴は回遊式の廊下に添って各居室(9室)を並べた配置にあります。(平面図参照)
 配置の良し悪しは別として、この回遊廊下方式のメリットは、緊急時の二方向避難の確保や、室内での移動の多様性・利便性の確保だと思われます。
 この建物では各居室の窓が腰高の窓となっているため、緊急時の避難は玄関および居間(食事室)の掃き出し窓、そして洗濯室にある通用口の三ヶ所のみとなります。
 この種の建物としては避難用出口が少ないと思われますが、廊下が回遊しているので、必要に応じて左右近い方の出口に避難できる点もあって少なく設定されたのかも知れません。
 しかし、洗濯室の通用口は直接廊下から見えず、且つ洗濯機やリネン置き場となっていて、避難上有効ではなかったと思われます。
 とすると、災害時の避難経路は玄関と居間の二ヶ所であり、且つ近い距離にあるため、反対側にある居室(居室8,9や居室4)からの避難は困難となります。
 今回の火災では、折角の回遊廊下の構造でありながら、避難用出口の適切な配置への配慮が不十分であったため、多くの人が避難できなかったとも思われます。

 今回の火災とは別問題ですが、平面図を見てすぐ疑問に思う点は、入居者用のトイレの数と配置についてです。
 入居者9名に対してトイレの数は2ヶ所であり、且つその配置は建物東側端の浴室の横にあります。
 この位置では、居間側の居室(居室1,2,5,6)からの距離が遠く、日常の使い勝手に問題があったように思われます。
 またトイレの数量についても、一般的には2、3室に対して1ヶ所のトイレを、なるべく建物全体の分散して配置して、各入居者向けの配慮を行うことが多いことを考えると、問題を感じます。
 回遊廊下によって、どちら側からもトイレに行けるとしても、数量・配置に大きな疑問を感じます。

 外部への避難通路の確保の問題と、トイレの数量・配置の二点についてから判断すると、当該建物の設計者が認知症高齢者についての知識が欠けていたのか、あるいは建設コスト面での制約が大きく優先されたか、いずれかの事情が想定されますが、入居者の生活や安全への基本的な配慮が欠けていたことに大きな問題を感じます。
 建築主・設計者・施工者の間でどのような打ち合わせが行われ、どのような考え方や判断の上で今回の建物が作られたのか、経過の検証と設計・施工者の説明責任があると思われます。

4.敷地環境について

市街地から車で20〜30分の距離にある当該敷地は、周辺に民家も無く、学会で以前より指摘しているように、グループホームと地域との日常的な接点や連携などは困難なことは明白と言えます。
今回実際に敷地および周辺を見て強く感じた点は、次の二つの点です。
第一は、敷地は海と丘にはさまれた傾斜地を造成したところであり、当該建物が建っている土地は、道路から直線距離で30メートルの距離を5,6メートル登った高さで、且つ反対の山側は急な傾斜地となっているため、圧迫感のある敷地状況となっています。
したがって敷地は約2800u(約850坪)あるにもかかわらず、そのほとんどは傾斜地と引き込み道路で占められており、平坦な部分は当該建物と駐車場部分になっており、入居者が利用できる庭などの外部空間はほとんど確保されていません。
高齢者が日常的に外部空間を利用できないばかりか、外部での移動や、緊急時の避難においては歩行や車椅子での移動が危険な状態になることが充分に想定されます。

 第二の点は、この敷地と海岸との間を走る道路(県道37号線・大村貝津線)の交通量が思いのほか多く、入居者が海岸側に出るためには、この道路を横切る必要があり危険が伴います。
敷地はこの交通量の激しい道路に面しており、この道路以外に外部へつながる通路がないため、歩行のできる認知症の人が仮に徘徊などで外部へ出た場合、非常に危険な状況となります。

 以上の二つの問題点は、地域の住民との接点や連携を確保するために、町なかで条件の厳しい敷地を選択する方向でもなく、逆に、快適で安全な日常生活を確保するために、郊外のゆったりした敷地を選定する方向でもなく、中途半端な理由の見えない敷地選定と言わざるを得ません。
 グループホームの敷地選定の考え方や条件について明確な指針の必要性と、郊外の安く入手できる敷地を選択せざるを得なかった社会背景と、今までそれらを見逃してきた行政の責任を明確にする必要を感じます。

5.敷地と建物配置について

 当該敷地は2798.82u(846.64坪)の広さがありますが、実際には傾斜地を造成しているため、建物用地として使用できない傾斜地部分が多くなっています。
道路・駐車場部分で約250坪、がけ部分が約250坪、残りの約350坪が建物の建設用地となっています。(配置図および敷地横断図参照)
 特に、市街地からの距離や交通の便、地域性などから職員などの駐車場に面積がとられ、建物周囲に庭や菜園などの外部活動スペースは一切確保されていません。
 更には、将来もう1ユニット(9名)のグループホームが計画されていたとの話しもあり、その場合には、更に厳しい敷地の状況となったことが想定されます。
 日常的な散歩や外出の困難なこの敷地条件の中では、せめて庭や菜園などの外部活動が安全な形で行えるための配慮が求められる気がしますが、居間に面した西側のデッキ以外に外部との接点が持てる場はありません。
 外部からの侵入者などへ配慮しながら、居室や廊下から簡単に外へ出られ、且つ道路やがけ、車両等からの安全性も確保されているスペース(中庭やサンルームなど)の配慮が配置計画の中で検討される必要があったのではないでしょうか。
 入居者が日常的に外部と接点が取れるように配慮しておくことによって、生活の広がりや豊かさが保たれるとともに、火災や地震などの災害時の避難対応が確保されるように思われます。
 市街地から離れたこの敷地状況に中で、入居者の日常生活の過ごし方や、室内以外の生活空間、緊急時の避難などに対して、設計者はどう考え、どう配慮したのか、明確な説明責任があるように思います。

 以上、火災現場および設計図書の検証において確認できた点を簡単に説明いたしましたが、今後更に建築確認の経過や消防機関での指導・チェックの内容、設計者・施工者等へのヒアリングなどを含めて、詳細の検証・分析を行った後に、正式な報告書としてまとめたいと考えております。

以上

※資料(いずれもPDFファイル)

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