くらしの明日:私の社会保障論  選挙で学ぶ民主主義◇北欧、若者も高い投票率を維持  参院選が終わりました。若者の投票率の低さや、女性議員の数の少なさを嘆く声が聞かれます。 「障害者が十分な選挙情報を得られなかった」という苦情も、総務省に寄せられました。  対照的なのが北欧です。投票率は8−9割をキープ。  若者の投票率も高いのです。 各党のホームページには知的なハンディのある人にも分かりやすいページや、 目が見えない人のために音声に変換しやすいページが設けられています。  比例代表制をとる北欧諸国では、候補者リストを載せた政党ごとの投票用紙「リスタ」が、街のあちこちに置かれています。  有権者は意中の党のリスタを選び、投票箱に入れるのですが、順位を変えたり、気に入らない候補者に×をつけたり、書き足したりもできます。  2005年9月に訪ねたノルウェーは、選挙戦の真っ最中でした。  街の目抜き通りに、緑や赤のシンボルカラーの「選挙小屋」が政党ごとに建ち、 選挙ボランティアがコーヒーやあめを勧めながら、 詳しいパンフレットを手に、党の政策を熱をこめて説明していました。  市民も真剣に質問していました。  1971年には女性たちが、男性候補に軒並み×を付け、女性の名前を書き加えるという組織的作戦を展開。 市議会に女性議員を大量に送り込みました。 このような歴史を経て、86年には18人の閣僚のうち8人が女性という内閣が誕生しています。  リスタと選挙小屋は、子どもたちが民主主義を学ぶための、 優れた小道具にもなります。 スウェーデンの中学校で、選挙と民主主義を1週間かけて学ぶ様子が、ユーチューブで公開されていました。 生徒たちは月曜日に選挙の基本を学んだ後、 各党の選挙小屋を訪ねてインタビューします。 水、木曜日にこれらをまとめ、各政党の主張を比較しながらクラスメートの前で発表。 金曜日には、意中の政党の「リスタ」を投票します。  こうした試みは60年代から始まりました。 98年からは全国統計が作成され、青少年庁の特別ページに学校ごとに載るようになりました。 2010年には1383校、44万人が参加しています。  選挙権も被選挙権も18歳からあり、これが若者の選挙への関心を高めています。 デンマークでは、さらに16歳まで引き下げる案も検討されています。  市議は必要な手当のほかは給料なし。 現職の教員、看護師、ヘルパー、警官など、あらゆる職種の人が市政に参加していることも、 若者の政治への関心を深めているようです。  子どものころから政策を学んで選ぶという「血の通った民主主義10+件」が、 日本でも芽生えることを願います。  ■ことば  ◇年齢別投票率格差  国レベルの議会選挙について、 16−35歳の投票率(%)と55歳以上の投票率(同)の差をポイントで表したもの。経済協力開発機構(OECD)が発表している。 格差が最も大きいのは英国で38ポイント。25ポイントの日本、23ポイントの韓国が続く。 北欧はスウェーデン3ポイント、デンマーク6ポイントと、年齢による投票率の格差が少ない。 (国際医療福祉大大学院教授・大熊由紀子 毎日新聞 2013年07月31日 東京朝刊)