私の社会保障論 ふるさとの会の挑戦◇「地域で最期まで」を応援  国際医療福祉大大学院教授・大熊由紀子         毎日新聞 2013年07月03日 東京朝刊  「自分で自分を守る力のない人々に、東京は冷たい都会になっていく。 庁舎は豪華につくられるのに、障害をもつ人の施設の多くが、人里離れた土地に建てられる。距離は次第に遠くなって秋田県や山形県にまでつくられるようになった」  1990年7月に私が書いた文章です。 その悪夢が今、高齢者で繰り返されようとしています。 首相が議長を務める産業競争力会議の指示で、都市部の高齢化対策に関する検討会が厚生労働省に作られ、介護が必要な高齢者を過疎の県に送り込む計画が提案されたのです。 「雇用を創出できる」「空いた土地を活用できる」と、受け入れに名乗りを上げる町も現れました。  都会で暮らす人々が、思い出の地を離れることなく人生を締めくくることは、本当に不可能なのでしょうか。  東京では今「認知症になっても、がんになっても、障害があっても、家族やお金がなくても、地域で孤立せず最期まで暮らせるように」との理念を掲げる挑戦が、根をおろし始めています。 99年に設立したNPO法人「自立支援センターふるさとの会」による活動です。  始まりは、私が冒頭の文章を書いたのと同じ23年前のこと。 3人のボランティアが週1回、ホームレスの人におにぎりとみそ汁を振る舞い、相談に乗る活動を始め、やがてNPOに成長しました。今、都内の五つの区で活動しています。  このNPOが支える1254人のうち、1割は介護が必要な高齢者。さらに精神障害、知的障害、認知症、がんのいずれかを抱えています。  「ふるさとの会」の支援の方式は、4段の重ね餅にたとえられます。 まず住まい。実は、都内には空いている部屋がたくさんあります。大家さんと交渉したり改装したりして、生活の拠点を確保します。 2段めは、困った時や病気になった時の、家族のような日常生活支援。 3段目は地域に根ざしたリハビリテーション、4段目が在宅でのみとりです。  それを271人の職員で支えるのですが、実は職員のうち100人あまりは、障害や病気を抱えた人たちがケアを受けながら働く「ケアつき就労」です。  地域の中で支え合うことで、人間としての誇りを取り戻しているのです。  これこそ、本来の意味での「リハビリテーション」です。  厚労省の検討会の委員のうち女性は1人だけ。  男性より圧倒的に多い1人暮らしの女性高齢者の気持ちに想像力を働かせることができるのでしょうか。  遠く離れたところに「施設」という名の箱をつくって、役割や誇りを奪う。そんな「成長戦略」は願い下げです。  ■ことば◇リハビリテーション  人間としての尊厳を奪われた時、そこから救い出すことが本来の意味。 中世には「破門の取り消し」「身分の回復」、近代には「名誉回復」「無実の罪の取り消し」の意味で使われた。 「機能回復」「社会復帰」との意味が加わったのは、障害者が増えた第一次世界大戦の頃から。第二次大戦で広く定着した。