千葉・ちいき発


やっぱり必要、みんなで作ろう!52

 6月議会での成立を願っていた条例案ですが、最大会派自民党の反対にあい、今議会での取り下げ・9月議会再提出が決まりました。6月27日の代表質問、7月3日の一般質問では170席の傍聴席が埋め尽くされるという、県議会では空前の様相を呈しました。驚いたような顔で傍聴席を見上げる議員、何ともいえないバツの悪そうな顔でチラッと見る議員……忙しい仕事や育児の合間を縫って、県内各地からはせ参じた私たちの気持は議員ひとりひとりに確実に届いたと思います。
 条例の原案取り下げという選択はわかりにくいかもしれませんが、私は堂本知事の英断だと思います。私たちは障害のある人のために、条例成立に向けて取り組んできました。けっして堂本知事のためでも、障害福祉課のためでもありません。この条例を心の底から理解し賛成してくれる人ならば、自民党でも民主党でも公明党でも社民党でも共産党でも市民ネットでも、それぞれの主義主張にかかわらずに、一緒に肩を組んで行きたいを思っています。だからこそ、政治家としてのメンツやプライドを捨てても、障害者のために苦渋の決断を下した知事を信じたいと思います。
 以下は本日(7月3日)の議会報告です。

(文責・野沢)

条例の灯を消すな!

 7月3日、千葉県議会で自民党の4議員による一般質問が行われました。この中では条例案についてはほとんど触れられませんでしたが、午前・午後を通して170席の傍聴席は満席でした。知的障害者、聴覚障害者、精神障害者、車いすの人など大勢の当事者が詰め掛けました。
 午後3時に4人の質問が終わって休会になりました。再開されたのは午後4時過ぎでした。ここで堂本知事から「障害のある人もない人もともに暮らしやすい千葉県づくり条例案」の今国会での取り下げと、9月議会提出について提案されました。堂本知事は次のように語りました。
 「今も誤解と偏見のために社会生活のさまざまな場面でつらく、悲しい思いをしている障害者はいます。この条例案が作られてきた背景には、障害のある人もない人も地域社会の一員として互いに理解し、尊重し合いながら暮らしたい、という大勢の人の強い願いがあります。この条例案は罰則や規制によるのではなく、話し合いで理解を促していくというのが条例の趣旨であり、それを踏まえて議会や教育委員会や企業関係者とも議論してきました。いずれも条例の趣旨には賛成してくれたが、条文の表現が誤解を招きやすいという意見もありました。
 よりよい条例にするため今議会で条例を修正することを検討してきたが、修正するなら原案を取り下げるべきだとの意見がありました。そこで、条例案を作ってきた研究会をはじめさまざまな人から意見を聞いたところ、条例案をの成立に向けて取り組みをする中で議論が広がってきている、その議論を絶やさないで欲しい、灯を消さないで−−という切実な声が私の元に届いています。
 どのような場面においても敵対関係になるのではなく、話し合いによって理解し合い解決していくというのがこの条例の趣旨であり、それに沿って考えれば、ここはいったん撤回することにして引き続き、議員のみなさまと十分な話し合いをしていくべきだと考えました。
 障害者、家族、障害関係者ら実に多くの人々が、この条例が成立することを待っています。9月に再提出させていただきたいと思います」

なぜ撤回なのか県民に説明を

 これに対して社民党の小宮議員が質問に立ち、「研究会や多くの県民が力をあわせて作ってきた条例案です。県内各地でタウンミーティングを開き、私も何か所かに参加しました。堂本県政になって一つの展望を開けるものができると期待していました。それなのに、どうして撤回になったのか、県民に徹底的な情報公開をしてこうした状況になった理由をしっかり知らせてください」などと疑問を投げかけました。
 共産党の丸山議員は「条例案の取り下げに反対します。障害者差別の深刻さを思えば、この原案によりよい修正をすることが求められている。報道によれば、自民党が『取り下げないなら否決』という態度だったために撤回せざるを得なかったといいます。自民党の横暴は到底許されるものではありません。今回の撤回は特定会派(自民党)を優先した議会軽視ともいうべきものです」と批判しました。
 さらに、市民ネットの大野議員は「条例案の原案に賛成、撤回に反対の立場から意見を言います。この条例案の理念に深く共鳴いたします。1年以上に及んで研究会がていねいに作ってきたのがこの条例です。11条(教育分野の差別)への反対が強いと言われていますが、私が参加した条例勉強会である人が『当事者の意思を尊重して混乱する教育現場とはいったい何なのか』と言っておられました。私もまったく同感です。障害の定義があいまいだとも言われていますが、あいまいなところがいいのです。今日の世界的な障害の定義でも、障害を周囲の環境との関係性において捉えることが一般的になっています。今日は午前中から傍聴席に大勢の障害者や関係者が詰め掛けて見守っています。どうしても撤回するというのであれば、ぜひとも9月議会に再提出して成立させてほしい」

撤回可決→9月再提出へ

 堂本知事は最後に「議員のみなさんに知っていただきたいのは、障害者や家族や関係者が、本当にこの条例の成立を心待ちにしていることです」と声を振り絞るようにして訴えました。
 知事にとっては断腸の思いだったに違いありません。各地で行われたタウンミーティングに駆けつけ、障害者の言葉に耳を傾け、熱心にメモを取っていた姿を今でも思い出すことができます。自民党から原案の修正を迫られたときには、1年以上に及んで議論を重ねてきた研究会やタウンミーティングに参加した大勢の県民のことを念頭に、なんとか原案のままでの成立を模索しました。しかし、議会では圧倒的多数の議席を占める自民党からは「修正をしなければ否決する」と迫られ、悩みぬいた末に「修正を検討する」と表明しました。ところが、今度は「修正ではダメだ。今議会では取り下げなければ否決する」と言われたのです。ここで譲歩したら政治家として顔に泥を塗られることになります。かつて男女共同参画条例の際に、同じように修正を迫られ、修正したところ支持者の多くが知事の元を去り、さらにその修正案まで否決されてしまう……という、まさに煮え湯を飲まされるような経験が堂本知事にはあります。
 このような苦渋をもう一度味わうことは、政治家にとってはこれ以上ない屈辱でしょう。それでも苦悩に苦悩を重ねた末に、最後に知事がとった判断は、障害者の願いの「灯」を消さないというものでした。
 もしも、撤回しないで突っぱねていったらどうなっていたでしょう。まさか、このような切実な条例案を否決するようなことは自民党の良識からいってもしないだろうと言われていました。しかし、つい最近も、大事な条例案が"弾み"で否決されてしまったことがありました。知事と自民党の反対派の対立がエスカレートしていったら、どんな結果になるのかは予想がつきません。万が一否決されてしまっては、せっかく広がってきた議論の「灯」が消えてしまいます。
 「なぜ撤回するのか県民にきちんと説明してほしい」「特定の会派の意向を優先するのは議会軽視」など、もともと条例案に賛成している会派の議員たちの言葉を誰よりも辛く受け止めたのは知事だったにちがいありません。一部の自民党議員からは、野次や冷笑が浴びせられました。
 それでも堂本知事が、条例の「灯」を守ってくれたことは、やはり英断であったと私は思います。対立ではなくて対話、罰則や規制ではなくて理解と議論−−それが私たちの条例案の基本理念です。圧倒的多数の会派の反対を押し切って、強行突破を図るよりも、理解を得られないのであれば粘り強く話し合っていくことが、この条例の理念に沿った選択というものではないでしょうか。

 午後5時過ぎ、条例案の今議会での取り下げが決定しました。議員たちは傍聴席をチラチラ見たり、笑ったりしながら議場を去って行きました。
 声にならないため息が傍聴席に重苦しく漏れました。くちびるをかみしめた障害者や家族が残っています。すると、だれもいなくなった議場で、堂本知事がひとり立ち尽くし、傍聴席を見つめていました。私たち障害者や家族が知事の姿に気づくと、堂本知事はこちらに向かって頭を深く下げました。その胸中はどんなものだったでしょう。「知事、これからもがんばってください!」「わたしたちがついています!」。傍聴席から声が上がると、もう一度、堂本知事は私たちに頭を下げました。知事に手を振りながら、みんな悔しくて泣いていました。最後のひとりが傍聴席から去るまで、知事は議場にたったひとりで残り、私たちの背中を見つめていました。

落胆している暇はない

 今議会での成立はダメでしたが、2月議会・6月議会を見ると、これだけ障害者のことが県議会で議論されたことはかつてありません。また、傍聴席が議員紹介ではない一般傍聴者で埋め尽くされたことは、「県議会で初めてのこと」(議会事務局職員)です。条例案そのものは足踏みを続けてきましたが、どんどん理解者が広がっています。各地での条例勉強会は地元の市会議員・県会議員や一般の人々が大勢詰め掛けました。今回、条例案(原案)は撤回になったものの、こうした障害者への理解を広げる取り組みはさらに9月までの時間をプレゼントされたのです。
 さっそく各地での勉強会を再開しましょう。まだやっていない地域は、7月〜8月にぜひ開いてください。一度やったところは、もう一度やりましょう。研究会のメンバーが出向きます。
 9月議会に向けての議論がこれから本格的に始まります。感傷にひたり、ため息を漏らしている暇はありません。傍聴席から出てきたとき、私は悔しくて仕方がありませんでした。「悔しいけれど、これが現実だね……」と漏らすと、研究会メンバーの女性に一喝されました。「何言ってんですか! これからが本番ですよ!」。そうです、障害者の条例案を切望する「うねり」はますます大きくなってきました。これからが本番です。みんさん、よろしくお願いします。

条例の成立を願う会カンパのお願い

●銀行名   千葉銀行  店番号 011(市川支店)
●口座番号  普通  3685907
●口座名義  千葉県手をつなぐ育成会  会長 田上 昌宏

<呼びかけ人> 田上昌宏(千葉県手をつなぐ育成会会長)/竜円香子(同権利擁護委員長)/大屋滋(日本自閉症協会千葉県支部長)/土橋正彦(市川市医師会長)/植野慶也(千葉県聴覚障害者連盟会長)/野内恭雄(千葉県精神障害者家族連合会会長)/成瀬正次(障害者差別をなくすための研究会委員・全国脊髄損傷者連合会副理事長)/佐藤彰一(同・法政大大学院教授)/高梨憲司(同・視覚障害者総合支援センターちばセンター長)/野沢和弘(同・全日本手をつなぐ育成会理事)
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