千葉・ちいき発


T はじめに

1.これまでの経緯

(1) 健康福祉千葉方式と「新たな地域福祉像」

  •  千葉県では、健康福祉施策について、@子ども、障害者、高齢者等の対象者を横断的に捉えた施策展開を図る(対象者横断的な施策展開)、A施策の企画段階から、当事者を含めた県民と行政が協働し、一体となって施策展開を図る(企画段階からの官民協働)、という2つの特徴を有する「健康福祉千葉方式」を採用しています。
  •  特徴Aは、施策づくりにおける従来の官民の役割分担を逆転させるものです。まず白紙の段階から当事者を含めた県民が活発な意見交換を行い、その結果について、行政側が既存制度・施策との役割分担、予算措置の可能性等を考えながら、制度化していくという関係を想定しています。実際、千葉県では、全く白紙の段階から、様々な障害当事者を含む県民が提案者側として作業部会等に参加し、「千葉県地域福祉支援計画」「第三次千葉県障害者計画」をはじめ、様々な施策づくりに携わってきました。
  •  「健康福祉千葉方式」を象徴するものが、両計画に、より多くの県民の声を反映させるため、県内13か所で開催された「タウンミーティング」です。これは、各地域の県民が実行委員会を組織し運営を主導するもので、知事や市町村長は「ゲスト」として招待される形となります。はじめは家族や支援者が代弁していた当事者の思いも、いつしか当事者が自ら「働く場所がない」「理不尽な差別を受けている」などと声を上げるようになり、「人と地域のうねり」が県内各地に広がっていきました。
  •  こうした議論を通じて、今後の千葉県の福祉が目指すべき方向として、@誰もが、Aありのままに・その人らしく、B地域で暮らすことができる「新たな地域福祉像」が提唱されました。

(2) 第三次千葉県障害者計画と「千葉県障害者地域生活づくり宣言」

  •  昨年7月、今後5年間の千葉県の障害者施策の基本計画となる「第三次千葉県障害者計画」が取りまとめられました。この計画は、健康福祉千葉方式に基づき作成され、「誰もがその人らしく地域で暮らすために」との副題が示すとおり、千葉県の「新たな地域福祉像」の実現を目標とするものです。
  •  また、この計画の取りまとめに当たって、堂本知事は、@県行政のトップとして、幅広く県民の方々に参加して作っていただいた計画の実行に全力を尽くすこと、A県民全体で「障害者がその人らしく地域で暮らせる社会」をつくっていくこと、を決意して、「千葉県障害者地域生活づくり宣言」を行いました。
  •  この宣言には、200ページに及ぶ計画の中で、障害者がその人らしく地域で暮らす上で最も重要な施策が4つ引用されています。 具体的には、@グループホーム等の充実・強化、A就労支援、B24時間365日の対象者横断的な相談機関(「中核地域生活支援センター」)の全県展開と地域のネットワークづくり、C障害者差別禁止に関する千葉県独自の条例づくり、です。
  •  かつての障害者に対する収容隔離政策は転換され、障害者に対する理解は少しずつ深まりつつありますが、依然として故なき誤解や偏見のために障害者が社会生活の様々な場面で不利益を余儀なくされている実態があります。千葉県の目指す「新たな地域福祉像」(誰もが、ありのままに・その人らしく、地域で暮らす)を実現するためには、上記@〜Bのような福祉サービス等を充実させるだけでは十分ではなく、誤解や偏見に満ちた地域社会そのものを変えていく必要があります。
  •  千葉県における「障害者差別をなくすための条例づくり」は、幅広い県民参加の下で進められてきた「新たな地域福祉像」の実現に向けた一連の取組みの中に位置付けられるものです。

(3) 「障害者差別に当たると思われる事例」の募集

  •  条例制定等に向けた最初の取組みとして、昨年9月16日より年末まで、広く県民から「差別に当たると思われる事例」を募集しました。これは、条例等の基礎となる「差別とは何か」を考える場合、何より「理不尽な悲しい思い」をしてきた当事者等の思いや経験を出発点にすべきと考えられたからで、健康福祉千葉方式の考え方に基づくものです。
  •  募集開始当初、応募は低調でした。これは、辛く悲しい思いはあっても「条例によって解決すべき事例かどうか判断がつかない」との反応が多かったためと思われます。このため、昨年11月15日、それまでに集まった事例を中間発表するとともに、事例募集の趣旨は、あくまで今後の検討の基礎資料とするためのものであり、条例になじむか否かに関わらず、差別に当たると思われる事例全般について幅広く応募していただくよう広く呼びかけました。その後、様々な団体や地域の活動の中で、障害者差別に関する勉強会が開催されたことも相まって、最終的には700件を超える事例が寄せられました。
(参考)「障害者差別に当たると思われる事例」の応募状況 : 総件数  707件
(内訳)
教育211件
サービス提供77件
医療76件
労働63件
知る権利・情報31件
建築物・交通アクセス30件
福祉29件
不動産の取得・利用24件
呼称11件
所得保障8件
参政権7件
司法手続6件
その他134件

2.研究会の設置と検討経過

(1) 研究会の設置

  •  寄せられた「障害者差別に当たると思われる事例」をもとに、「差別とは何か」「どうし   たらなくせるのか」等について徹底して検討するため、第三次千葉県障害者計画推進作業部会(以下「推進作業部会」といいます。)の下に、官民協働の「障害者差別をなくすための研究会」を設置し、具体的な検討を行うこととしました。

(2) 検討経過

  •  この研究会は、推進作業部会からの推薦と公募による委員29名により、今年1月26日に設置されました。その後中間報告取りまとめまで、ほぼ月に2回のペースで合計12回にわたり検討を重ねてきました。
  •  この間、募集した事例の分析のほか「差別をなくすための取組みの意義」や「条例の法的性格」等について検討を行いました。また、第9回及び第10回の研究会では、関係団体や個人、県庁内関係各課との意見交換を行いました。(別添1参照)

(3) 障害者差別をなくすためのタウンミーティング

  •  障害者差別をなくすための研究会が本格的に活動を始めるに当たり、障害者差別に対する県民全体の関心を高め、また、基本的な共通認識を持つことを目的として、本年2月20日、市川市の和洋女子大学において、「障害者差別をなくすためのタウンミーティング」が開催されました。参加者は約500人でした。
  •  タウンミーティングでは、自身も障害をもつ当事者で、国連障害者権利条約アドホック委員会政府代表団顧問の東俊裕弁護士による基調講演「なぜ差別禁止法が必要なのか」、東弁護士・野沢研究会座長・堂本知事の三者によるパネルディスカッション「障害者差別をなくすために」、実践事例の発表、意見交換などが行われました。
  •  基調講演における東弁護士の発言のポイントは、次のとおりです。
    •  福祉サービスだけが充実しても、差別の解消はできないこと
    •  諸外国においても、障害者差別禁止規定を有する国が40数カ国に上っていること
    •  差別には、「障害を理由に、他の人と違う扱いをする場合」(不利益取扱い)と「実質的な平等を確保するために必要な一定の配慮をしない場合」(合理的配慮の欠如)の二つのパターンがあること
    •  差別禁止法は、障害者のためだけのものではなく、社会のあり方を一人一人の個性に合わせたものに作り替えていくための基礎となること
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