千葉・ちいき発

千葉県知事・堂本暁子さん

 私はこの夏、障害者差別の禁止に関する条例制定を宣言した。他人に迷惑をかけるからといって自閉症児が病院やレストランの利用を拒否されたり、精神障害者が部屋を貸してもらえなかったり、盲導犬を連れて旅館やホテルに泊まれないなど、障害者は生活のさまざまな場面で差別を受けている。

 なぜ、差別がなくならないのか。わが国では、障害者を一人の人間として大事にする地域づくりが進んでいないためだと私は思っている。地域には特徴があり、それぞれの都合がある。にもかかわらず、これまで中央で縦割りの福祉政策が決められ、一人一人の障害者にとって公的なサービスが必ずしも使い勝手のよいものになっていなかった。これを打破するには、障害者自身が発想し、地域の住民と共に主体的に政策を作り上げていく以外にない。

 千葉県では、障害者が日ごろ感じていた不便や希望を踏まえ、まっ白なキャンバスに県の施策や計画を自由に描いていった。「千葉県地域福祉支援計画」と「第3次千葉県障害者計画」である。計画を作るに当たっては県内13カ所でタウンミーティングが開かれ、障害者が元気に、時には手話通訳を使い、声を上げた。「働きたいが仕事が無い」「理不尽な差別を受けている」「施設ではなくまちに住みたい」「多様なサービスを自分で選びたい」と訴えた。タウンミーティングは聴覚障害者と精神障害者など、さまざまな障害者がお互いに存在を知り合い、地域住民が障害者への理解を深める場でもあった。

 こうした議論を通じ、千葉県の「新たな地域福祉像」は「誰もがありのままにその人らしく、地域で暮らす」ことへと収れんし、うねりとなって県内に広がっていった。

 障害者がその人らしく地域で暮らすためには、すべての県民が障害者への偏見をぬぐい去り、差別をしないことである。そのために今回差別を禁止する条例を作ることにしたのである。

 現在、その第一歩として県民から「差別に当たると思われる事例」を募集している。何より「理不尽な悲しい思い」をしてきた当事者等の経験から出発したいからだ。来年初めには研究会を設置し、集まった事例を基に「差別とは何か」「どうしたら解消できるか」などを徹底して突きつめたい。条例になじまない事例もあるかもしれないが、切りすてるべきではない。

 条例を万能視せず、例えば学校で子どもたちに教える材料に使うとか、差別に関する相談の指針として活用するなど、さまざまな取り組みを網の目のように張りめぐらし、一つ一つの差別を確実になくしていきたいのである。条例の内容よりも、時間がかかっても県民一人一人が障害者差別について考え、差別のない地域づくりについて話し合うプロセスが大切だと考えている。

 県民主体で作った計画を「絵に描いた餅」に終わらせてはならないと、実践のための運動が盛り上がっている。グリム童話「ブレーメンの音楽隊」にヒントを得て、さまざまな人がそれぞれの能力を生かしながら協力して暮らす「ブレーメン型地域社会」づくりを進めようというものである。これは福祉の領域を超えて就労、農業、教育、環境など数多くの分野がクロスオーバーした、まったく新しい分権型の地域社会である。障害者差別の禁止に関する条例づくりは、こうした地域社会を実現する不可欠な取り組みなのである。

 すでに40カ国以上で差別禁止法があるにもかかわらず、わが国ではまだ制定されていない。差別の定義、住民や企業の理解など課題は多いが県民と共に粘り強く取り組んでいきたい。

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