優しき挑戦者(国内篇)
(66)認知症をあたたかく包む若狭発の風

「五色の湖」の景勝で知られる福井県若狭町の音楽ホールで、ショパンの調べにのって21篇の詩が朗読されました。
認知症一行詩全国コンクール09の表彰式でのことです。選ばれた作品は若狭の四季の風景とともにスクリーンに映し出されました。
集まった人々は、深くうなずき、ときに笑いが爆発し、感動の波が伝わってゆきました。一行詩と若狭の風景の絶妙な組み合わせが、会場をあたたかく包み込んでいったからでした。

もう じっちゃん!!
また、ちごとるで いつきやし
ほんでも まごの名前はみな正かい
大谷一生(いつき)君(若狭町立熊川小学校2年)

ひいじいちゃん
会ったらいつも 「まあちゃんか?」
それは、ばあちゃんでしょ
ばあちゃんの事 大好きなんだね
戸田絢子さん(徳島市立助任小学校5年)

「おなかすいた おなかすいた」が口ぐせのばあちゃん
ぼくと同じ育ちざかりだね
大林ひろと君(北九州市立思永中学1年)

朝ごはん食べてまたごはん
昼ごはん食べてまたごはん
だいじょうぶ 少し減らしといたから
村上真由さん(若狭町立上中中学校1年)

ほめられたと
ぬり絵を見せるおばあちゃん
デイサービスでも 優等生目指してる
高橋雄一郎君(旭川市立常盤中学校3年)

「自分の名前覚えとる?」
そんなひどいこときくんじゃなかった
澤村神奈さん(若狭町立三方中学校3年)

這いながら 戦争へ行くという父に
 「おむつを替えてから行こうね」と
やんわりなだめている妻
若狭町・原稔さん(71歳)

◆夜、狸のように集まる「ポンポコリン勉強会」◆

世代をこえて認知症をあたたかく包む若狭発の風。いったい、どんないきさつで誕生したのかが知りたくなりました。
たどり着いたのは、愛妻が認知症になったことを町の人に隠さない、勇気をもった町長さんでした。そして、医師、ナース、教育、観光、警察など分野の違う様々な人たちの絆でした。

医師は玉井顯さん。18年前、35歳のとき、認知症を中心にした開かれた病院を敦賀につくりました。そこに開設と同時に外来ナースとして加わったのが島久美子さんです。
「困っている方は、地域の中におられる」
「手遅れになる前に認知症に気づいてもらいたい」
この2人の気持ちと隣町の若狭町保健センターのスタッフの意見が一致しました。

こうして、脳を考える会「ポンポコリン勉強会」が始まりました。「狸みたいに夜集まってワイワイやる」ことからついた名前だそうです。

◆「腹をたてずに顔たてる」◆

島さんは理想を実現するために、町役場に就職して一軒づつ訪問するようになりました。写真は、病院から地域に飛び出した島久美子さん。小学校の家庭科教室で、紙芝居を使っています。

一家で気軽に記入してもらう45項目のアンケートを考えました。認知症の家族の体験に耳を傾けて編み出したざれでも答えられる項目です。たとえば−−。

会話の中に「あれ」とか「それ」とかの代名詞をよく使う
ゴミや紙を集める
重ね着したり、着衣の順を誤ったりする
話がくどく、同じことを何度も繰り返す
昨日のできごとをほとんど忘れてしまう
作り話をする
よく知っている場所でも道に迷うことがある

精密検査を勧めるだけでなく、「ハラをたてずに顔たてる」など、具体的な接し方の極意も伝授しました。
「何かあったら連絡してね」と一言かけることで町の人とつながってゆきました。この8年間で訪問した人はのべ2000人になります。

◆夫人の認知症を隠さなかった町長◆

05年、島さんは、当時の町長、千田千代和さんに相談しました。
「認知症の支援は町ぐるみでなければ」
千田さんの夫人に認知症の兆しが現れたのは、10年年ほど前のことでした。千田さんは玉井さんに相談。その助言をうけて、夫人について、町民にも包み隠さず話すことにしていました。
認知症の深い理解者だったのです。早速、プロジェクト若狭「認知症ケアからはじめるまちづくりフォーラムわかさ」を立ち上げました。
「認知症サポーター」を養成するための工夫にも磨きがかかりました。
写真のように、町の有名人が手製のカツラで扮装して登場しました。教頭先生が信号役やお巡りさん役で登場しています。右手をあげているのが、玉井ドクターです。
写真のように、聞き手を舞台に呼び込んだりして、盛り上げます。

講座を終了、サポーターのシルシ「オレンジリング」を腕につけたこどもたちです。

◆全国コンクールに発展◆

プロジェクトの初代座長の城谷義則さんに、アイデアが閃きました。「学校の国語の先生が手がけている一行詩、これを認知症への理解を深める手だてにしてみてはどうだろうか」。
募集してみたら、心に染みる詩が続々と集まりました。

「もったいないから全国に広げては」という話ももちあがりました。
08年、第1回の全国コンクール
さらに、「詩を集めて本にしよう」「若狭の風景の写真コンクールの入選作と組み合わせては」とアイデアが沸き出しました。
かもがわ出版から出て好評のこの本のタイトル「いつもおおきん」の名付け親は、二代目座長の服部茂男さん。
亡き父上が、いつも口にしていた感謝の気持ちを表す若狭の言葉です。

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