優しき挑戦者(国内篇)
(63)北海道・当別町発・"ごちゃまぜ福祉"のお茶の間で(*^^*)

◆いつのまにか、ボランティアに◆

白樺と梟がシンボルの、人口2万人たらずの石狩平野の当別町。偶然の機会から、ほんの数時間滞在したのは、ことしの夏のことでした。
そして、この町の魅力に引き寄せられ、商工会も共催する秋の「ふくしのまちづくり勉強会」(地図)に参加してしまいました。
だれもが、気がつかないうちに、いつのまにかボランティアになってしまう不思議な雰囲気が満ちていたからです。

写真@:イベントの裏方をつとめた北海道医療大学出身の若者たち

写真@は、2日間の勉強会の裏方をつとめた北海道医療大学の学生、卒業生のみなさん。町をあとにするとき、フト思いついてカメラを向けたら、とっさにこんなポーズをとってくださいました。この茶目っ気も、町のあたたかさと関係がありそうです。

◆ぬぐい去られていく偏見◆

写真A:元アルペン競技の名選手、渡辺さや可さん と
向谷地生良さんの漫才風講演

昼のプログラムは型破りでした。
たとえば、映画「降りていく生き方」の上映に続いて、精神病院から7年も出られなかった元アルペン競技の名選手、渡辺さや可さんが登場しました。その文字通り「降りていった人生」。幻覚&妄想大会で知られる向谷地生良教授が軽妙に話を引き出します(写真A)。
参加した人たちの偏見が、爆笑の中で、ぬぐい去られていきました。

夜の部を盛り上げたのは知的にハンディのある町民でした。写真Bで手品を披露している田村準起さんの昼の仕事場は、地域オープンサロン「ガーデン」です。いまや、ドーナツづくりの名人として、欠かせぬ存在です。
知的なハンディのある人たちの仕事場というと、「貧しい作業所」のイメージが浮かんでしまいますが、ここは、まさにオープン。
町の人たちで賑わっていました(写真C)。

写真B:懇親会を盛り上げた”手品師”の昼の仕事は。。 写真C:駄菓子屋さんもある軽食喫茶、地域オープンサロン「ガーデン」

◆「いつのまにか」の秘密は◆

写真D:こどもたちに人気の駄菓子屋さん

ここには、「1日コックさん」の日があって、料理自慢のプロやアマが腕を振るいます。
約束事は、厨房や消耗品の使用料2000円を支払うことだけ。売り上げの大半は、1日コックさんのものになります。ふつうの人が思い描く「ボランティア」や「奉仕」でないのが特徴です。

ただ、ここにかかわることで、それまで障害や福祉とはまるで縁のなかった人々が、いつしか、強力な理解者に変身してゆきます。
駄菓子屋さんもあります(写真D)。子どもたちで賑わっています。
「こどもたちや障害のある方から、教わることが多く、いつもハッとします」という売り子ボランティアに何人も会いました。
「オープンスペース」は、このまちの「お茶の間」なのです。

◆社協とNPOが、仲良く机をならべて◆

ところで、社会福祉協議会とNPO、目標はよく似ているのに、互いの仲がしっくりいっていない、そんな例が少なくありません。
実はこの町も、かつては2つのボランティアセンターがありました。
ひとつは、当別町社協が運営するボランティアセンター。もうひとつはNPO法人当別町青少年活動センター「ゆうゆう24」が運営する北海道医療大学学生ボランティアセンターです。
学生ボランティアセンターは700人もの若い登録者を抱えていながら、なにが求められているかの情報に欠けていました。一方、社協は、人的資源が圧倒的に不足していました。

この2つのセンターが一つ屋根の下で仕事をするようになったのは、2006年度に策定された「地域福祉計画」の重点施策に「地域福祉ターミナル」が位置づけられたからでした。
策定委員長は、北海道医療大学教授だった横井寿之さん。知的障害のある人の施設の個室化に日本で初めてとりくんだり、障害のある人たちが育てた野菜に「絵本の館・剣淵町から」というブランドをつけて町おこしをしたり……この世界のパイオニアです。

「ターミナル」は、5つの機能をもっています。
@情報基地である総合ボランティアセンター
A高齢者ボランティアを支援することによる介護予防の拠点
B商工会や学生を結びつけての地域活性化の融合拠点
C住民交流空間
D福祉教育の拠点。

写真E:NPO「ゆうゆう24」と社協のボランティアセンターのスタッフが机を並べる情報基地「地域福祉ターミナル」。この日は、スイカの差し入れが。。

写真Eは情報基地コーナーでの一コマです。左から社協の小國柑奈さん、NPOの穂刈真由美 さん、30歳の所長大原裕介さん。
若者たちの健康を気づかって、町の人が、夕食やおやつ差し入れをもって顔を出します。夏に訪ねたときには、五十嵐廣子さんが包丁とスイカをもって現れ、私もお相伴にあずかりました。

育児の手助けが必要なとき、子育ての達人と結びつけ、場も提供するファミリーサポートシステムもあります。写真Fは、母の姿が見えなくなって泣き止まない赤ちゃんに、機転をきかせてポケモンの動画を見せたら機嫌がよくなった瞬間です。
障害のある子もない子も写真Gのにように集います。2階には、いつでも無料で借りられる部屋があって、趣味や会議に活躍しています。ここも、「ガーデン」同様、まちの茶の間でした。

写真F:「ターミナル」は地域の茶の間。子育てサポートもここで。 写真G:“お茶の間”なので、障害のある子もない子も集まってきます。右側の棚には、配食ボランティアのためのバッグが並んでいます

◆夕張にも広がる輪◆

写真H:「ふくしのまちづくり勉強会」は商工会も協賛名物「いもだんご汁」に腕を振るった女性部のみなさん

この雰囲気に惚れ込んで、夕張では、「さぽーとセンター・シューパロ」が立ち上がりました。車がないので買い物にいくこともできないお年寄りたちのために食事をつくって1食500円で配る仕事です。主役は、精神病を体験した人々。シューは就職の就をあらわしています。

支える人が支えられる人から学び、支えられる人が支える側になる−−「当別発・ごちゃまぜ福祉」の輪は、次々と広がっています。

大阪ボランティア協会の機関誌『Volo(ウォロ)』2009年11月号より)

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