優しき挑戦者(国内篇)

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●カニのはさみのつけねに……

 「ふわり現象」と名づけたくなるような新鮮な福祉文化の風が、知多半島から全国各地に夢を運んでいます。
 愛知県から突き出している蟹のはさみのような2つの半島、その左側の付け根にある半田市のNPO法人「ふわり」と社会福祉法人「むそう」が発信地です。
 「ふわり」は障害のある人を社会が包み込むという意味。
 「むそう」は、夢想、無想、夢走、無双、夢創の掛けことばだそうです。
 重い障害のある人「こそ」、施設ではなく地域で暮らし続けられる、そんな社会をつくるプロになりたい、という若者たちの思いから始まりました。
 その拠点のいくつかに、まず、ご案内しましょう。

●喫茶なちゅ

写真@:喫茶「なちゅ」の入口には、昔なつかしい駄菓子屋さんが

 なちゅは「ナチュラル」の「なちゅ」。障害が重くても楽しく働ける場としてNPO法人「ふわり」がつくりました。ここには、様々な「たくらみ」が込められています。
 入ってすぐのところは駄菓子風にしつらえられています(写真@)。隣に児童館と保育園であるので、こどもたちが、ごく自然に障害の重い人々と触れ合うことになります。
 ここには写っていませんが、重い心身の障害のために言葉を話せず手足も不自由な男性が、お客に小さな籠を渡す仕事を実に嬉しそうにやっています。
 昨年春、日本福祉大学の1年生がヘルパーのアルバイトを志願してきました。聞けば、こども時代からここの常連。
 「いつか『ふわり』の職員になって駄菓子の番台に座りたいと福祉の大学を目指したのです、と聞いて、嬉しかった。僕らの活動がこの土地に根付いてきた感じがして……」と若き理事長、戸枝陽基さんはいいます。

写真A「なちゅ」の通貨はビー玉を使った「びぃ」。一びぃは、世間の百円

 公民館が前にあるので、会合のあとは賑わいます。「なちゅらん」入り特製ホットサンドは、この店の人気メニューです。「なちゅらん」は「むそう」が経営する「たまごはうす・ぴよぴよ」で自然の餌で育った鶏の卵です。「なちゅ」の店員は、計算が苦手な重い知的障害のある人々なので、ここでの通貨はビー玉。百円が1びーにあたります(写真A)。
 4月からはワンデイシェフ・ボランティア」に腕を振るってもらう計画です。プロではない主婦や学生が2週間に1度、材料の仕入れから調理、店の雰囲気づくりなど一切をまかされます。ボランティアと銘打っていますが、売り上げの一部を報酬として受け取ってもかまいません。

●中華茶房「うんぷう」

 社会福祉法人「むそう」の本拠地である「アートスクエア」は、その名の通り、実に洒落たつくりなのですが、法律上は授産施設。その一角に、中華喫茶「うんぷう」があります。
 人気メニューは、自然の餌で育った黒豚のチャーシューと「なちゅらん」をトッピングしたラーメン。厨房では、「仕事なんて、とうてい無理」と太鼓判を押されていた自閉症の人々が大活躍しています。
 水にこだわりが強い人は洗い場をまかされています。写真Cのように手順をしっかり決めておくと、パニックを起こさず確実にやってのけるのだそうです。

写真B:中華茶房「うんぷう」、法律的には通所授産施設 写真C:厨房は、自閉症の人のために、細かい手順が
写真D:グループホームの一室、お気に入りの塗り絵が

 「9」という数字にこだわりのある自閉症の人は計量係。40グラム入れるのがふつうのタレを39グラムにして任せると、1つ測るごとに笑顔がこぼれます。ダウン症のひとは、愛嬌たっぷりに、お客に運ぶ係です。
 「アートスクエア」には、重症心身障害者と呼ばれる人々が「売り子」をつとめるアジア雑貨の売り場もあります。彼女たちはバーコードの機械をもって、バギーに乗って横たわっています。お客は商品についているバーコードを機械に押しつけて買います。この「お客参加型」がかえって人気を呼んで月20万円ほどの売り上げ。
 写真Dはグループホームの一室です。経管栄養が必要な人、インシュリンの注射が不可欠な人など、ふつうのグループホームや施設には断られる人、強度行動障害があるからと施設の重度棟に閉じ込められる運命の人が、ここではホームヘルパーと世話人の支援を受けて食事をし、昼は仕事場にでかけ、余暇を楽しんでいます。

●助けてくれない。見殺しにされる。

写真E:生活支援センター「あっと」の壁には地域で支えるサービスの数々が

 1999年4月、戸枝さんが施設をやめたときの退職金100万円、障害のある子をもつ5人の親たちのそれぞれ100万円、あわせて600万円を出し合って一軒家を借りた地域支援が始まりでした。スタッフは戸枝さんを入れて3人。4年間は、行政からの補助金はゼロでした。スタッフは2年目に6人、3年目には12人、利用する人はあっというまに130人。写真Eのように、サービス拠点が1つづつつくられてゆきました。
 重い障害をもっている人々が、まちの中で輝いて暮らしているその姿が、市役所の担当者や市長を動かしました。

 戸枝さんはふだんはかなり無口です。それなのに講演を引き受けるのは、「イレギュラーなこのやり方の仲間を増やしたいから」だそうです。
 「日本人の美意識では、いいことをしていれば、いつか世の中がわかってくれるという考えがあるけれど、それは甘えだとおもう。多くの人に、とりわけ福祉に接点がない人にアピールしないと、説明しないと、世の中が分かってくれない。助けてくれない。見殺しにされる。僕たちがとりわけ大切にしている視点です」

●くわしく知りたい方は……

写真F:ビデオもできました。真ん中は、重症心身障害のある「店長」さん

 最近、ビデオをつくりました。
 第1部は『むそうの働き方にせまる−ふわりとつつんで』、第2部は『むそうのメンバーの笑顔まんだら−むそうのえがお』(写真F)。1本3000円、2本セットだと5000円です。
 戸枝さんの講演をまとめた冊子「ノーマライゼーションの詩(うた)」も出たホヤホヤ、これはDVDつきの1000円です。
 ご注文は〒475-0074 半田市長根町3-1-11 0569−20−2577の 「むそう」へ 。
 HPは、http://www.mmjp.or.jp/fuwari/musou/

大阪ボランティア協会『Volo(ウォロ)』2006年3月号より)

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