優しき挑戦者(国内篇)

※写真にマウスポインタをのせると説明が表示されます


 「太陽と緑の会」は、暗闇で出会った象みたいです。
 ある人は「時代の最先端、給料をミィーティングで、公開で決めるんだ」と感動をこめて語ります。
 インターネットで検索すると、「リサイクルショップ一覧」「国際交流組織名簿」「体験ボランティア事業」など様々なところに出没します。
 暗闇で象の耳に触れた人が「扇のよう」、足に触った人が「柱みたい」、尻尾をつかんだ人は「縄そっくり」というのに似て、全体像が浮かびません。徳島の現場に出かけて真相を突きとめるべく訪問の予約をしました。

 その矢先、とんでもないことになりました。
 事務所兼リサイクルショップが2005年2月27日の明け方、全焼してしまったのです。写真@のようなありさまです。人けも、火の気もない、休日あけの午前5時に玄関あたりから出火というので放火の疑いも強く、写真Aのような、物々しい立入禁止テープが張りめぐらされています。
写真@:全焼したリサイクルショップ 写真A:放火の疑いというので、警察が立ち入り禁止
写真B:全焼したリサイクル品のごく一部です  数万冊の文庫本、おもちゃ、レコード、家電製品など約100万点の商品(写真B)に加え、20年間の記録、ソフトのすべてが燃えて消えてしまいました。
 瓦礫の片づけは障害のあるるメンバーたちがコツコツするとして、建物の再建だけでも、少なく見積もって2500万円は必要です。

 もとはといえば、筋ジストロフィー支援の先駆者、近藤文雄さんが故郷の徳島に戻って1971年に始めた研究所設立運動でした。25万人の署名を集め、78年、国立神経センター設立に成功にこぎつけました。

■廃品回収の親方に2年間弟子入り■

 新しい展開が始まったのは、84年、杉浦良という青年がやってきてからでした。
 当時、障害のある人の仕事というと、施設でも作業所でも、下請け、孫請けの手内職でした。
 「それが嫌でした」と、いまは代表理事の杉浦さんはいいます。
 社会に貢献できて誇りがもてる、自立につながる、「ボランティアさん」だけでなく、社会とつながっている、そういう仕事として、不用品のリサイクル事業が浮かびました。

 大阪の廃品回収の親方に2年間弟子入りし、屑鉄、銅、真鍮の見分け方、回収、販売、相場をみっちり修業しました。
 「お弁当やパンづくりも社会とつながれる。でも、ぼくは得意でなかったのでリサイクルを選んだだけのこと」
 同志社大学社会福祉専攻卒ですが、入学したときには電子工学専攻、料理よりハンダづけの方が得意なのです。

 福祉関係の施設や作業所は、ふつう、「指導員、先生、職員」と「通所者、生徒、園生」から成り立っています。
 「太陽と緑の会」では、20年前から、メンバー・スタッフという呼び名を使っています。芸能タレントとその才能を羽ばたかせるスタッフの関係のようなものだそうです。

■スタッフのボーナスは障害のあるメンバーが決める!!!!!!!■

 メンバーの仕事は様々です。解体して積み上げる人、再生のためにさびを落とす人、色の塗り替えに精を出す人、分別する人、売り子をつとめる人……。
 再生品の大半は市価の5〜10分の1なので掘り出し物を求める市民で賑わい、年間の売り上げ4000万円ほどになりました。(写真CD)

写真C:2000台の放置自転車から1000台を再生していたころ 写真D:ウコッケイとチャボは無事でした

 メンバーが月一回、「給料ミーティング」を開き、互いの仕事ぶりを評価し合って給料を決めるのも長年の伝統です。
 「私は400円アップ」「いまのままでいい」「200円ダウン」といった自己申告で始まり、「回収のとき軽いものばかり持っていたから300円ダウンじゃない?」という具合に互いの評価が続きます。みんなの評価を平均してその月の給料が決まります。
 月1万5000円から10万円と開いていますが、納得づくなので揉めることはありません。スタッフのボーナスはメンバーが決めます。
 仕事をして給料を受け取る生活は、生きる知恵や意欲を駆り立てるようです。
 「制度になじまない」と施設で敬遠された人々が、ここでは生き生き働いているのが凄いところです。

■制度の壁と格闘して「グランドデザイン」を先取り■

 厚生労働省は、さきごろ障害福祉改革の「グランドデザイン」を発表しました。目玉の第1は、知的・精神・身体障害の種別を超えること、第2は、仕事をもつことによる誇りや喜びを大事にすることです。
 太陽と緑の会は、20年も前から、法律や制度の壁と格闘しながら、それをやってのけていたのでした。

写真E:贈られたパソコンの前で語る代表の杉浦さん(左)と事務局長の小山 隆太郎さん

 全焼した鉄骨2階建て480平方bの売り場兼事務所は86年に誕生しました。
 新市庁舎が完成したら廃棄される運命だったプレハブの仮庁舎を、タダで譲ってもらい移築したものです。
 徳島新聞の記事がきっかけで、建設業協会の人々が無償で組み立ててくれました。土地は仏壇の「なむなむ堂」の社長が格安に貸してくれました。
 「鉄骨むき出しだったので、ハンディをもつメンバーがボランティアの方々と一緒に、天井や床をはり、外壁に色を塗り、18年半かけて少しづつ、つくりあげてきました。それが灰になってしまったのが無念で」と杉浦さん(写真E)は声を詰まらせました。

●支援の窓口は●

 精神病を体験した人による弁当づくりと喫茶店を徳島市で手がけるハートランド代表のの山下安寿さんは、「太陽と緑の会は、後に続く私たち熱心に指導してくださった。完全復興ができるよう恩返ししたい」と支援の事務局を引き受けました。
 支援金の振込先は「徳島島田郵便局 01630−5−37964、口座名 山下安寿」問い合わせは山下さん〈電088(633)1410〉へ。
 太陽と緑の会のHPは、http://www2.ocn.ne.jp/~t-midori/
 支援のためのHPは、http://www.tk2.nmt.ne.jp/~heartland/saiken.htmlです。

大阪ボランティア協会『Volo(ウォロ)』2005年4月号より)

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読売新聞徳島支局記者  白石佳奈さんからのメール 2006.5.2発

お知らせが遅くなりましたが、全焼したリサイクルショップ「太陽と緑の会」が、1年2月ぶりに復活オープンしました。
初日の4月24日は、開店前から100人ほどの行列が出来る大盛況。扉が開くとドドドッ〜〜〜〜とお客さんが突進し、両手一杯に荷物を抱えてどんどん出ていきます。まるで、デパートのバーゲンセールみたいな大繁盛ぶりでした。
開店までに、「いつオープンするんですか?」と問い合わせの電話が何度もあったそうで、本当に人気のお店なんだなと思いました。

焼ける前の建物は2階部分が板を敷き詰めただけでした。そのため、火事になったら床が落ち、34年間の活動記録をすべて失ってしまいました。本14万冊に食器1万点、修理した電化製品などのリサイクル品も、メンバーが21年間かけて集めた修理道具も、すべて灰になりました。そして、2トントラック50台分の「ゴミ」になってしまったのでした。
この経験から、少しお金がかかっても新しい建物は2階の床にコンクリートを敷き詰めました。入り口付近で何者かが火をつけ(?)、それがプラスチックのかごに燃え移って広がったことから、新しい入り口は2重になりました。

新しいショップは鉄骨2階建てで、前の建物とほぼ同じ約460平方メートル。
1階には高級ブランドバッグや食器、電化製品など、2階には書籍や洋服、靴などが置かれていて、試着室も完備です。外壁などに少し補修工事を行った約33平方bの隣の建物は、「掘り出し物コーナー」と書かれ、食器や服が100円程度の激安価格で買えます。
火事でほとんどの商品が灰となってしまったために、今でも商品数は以前の1割程度だそうですが、「その分陳列がゆったりしていて、見やすくなっています」と杉浦良さんはPR。

ここでは環境保全活動にも力を入れていて、以前と同じように新ショップの屋根にもソーラーパネルを設置、約半分の電気量をまかなえます。そしてまた、以前と同様、冷暖房設備はつけていません。
しかし!
工務店の人と知恵を絞り合って、独自の自然換気システムを開発しました。天井に取り付けた空調システムで、夏は暑い空気を吸い上げて、屋根の上のドームから自然換気瓦を伝って熱を外に出します。冬は空調システムを閉じて、暖かい空気を部屋の中に閉じこめるというシステムだそうです。
さらに前徳島県知事から11トン車2台分の県産杉も寄付され、それを屋根瓦の下に敷き詰めて、夏は涼しく冬は温かくなるような工夫も凝らしています。
以前の店舗では2階は「蒸し風呂」と言われ、上がるお客さんは一人もいなかったそうですが、「これでうまくいくかなぁ〜」とスタッフ全員で期待しているとか。

復活を願って集まった寄付は、2000人以上から2100万円。火災後の後かたづけを手伝ってくれたボランティア団体や、絶えずリサイクル品を持ち寄ってくれた地域の人など「5000人以上の人に支えられての再開」と杉浦さんは感無量の様子でした。
つらい時期を乗り越えての復活オープンとあって、開所式であいさつしたメンバーの男性(30)が観衆に大きく「ありがとうございました」と礼を述べた後、「再開できることを幸せに思う。胸を張って頑張っていこう」と仲間に呼びかけていたのが、とても印象的でした。
新しい店舗の写真を添付していますので、是非ご覧下さい。

読売新聞徳島支局  白石佳奈


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